移動をこよなく愛する男、トラベルライター「Yuji」です。
タイ・バンコクで運航開始された「オークラクルーズ」
その名前を初めて聞いた瞬間、私は正直なところ半信半疑でした。ホテルオークラといえば、日本を代表する高級ホテルブランドのひとつ。タイのバンコクで数々のホテルやラグジュアリーなサービスを体験してきた私にとっても、「オークラ」が冠されたクルーズがどの程度のクオリティを提供してくれるのか、期待と同時に疑問も抱いていました。
「バンコクで本格的な日本料理、それも鉄板焼きとお寿司を船上で?」
実際のところ、タイには日本食レストランが非常に多く、寿司や鉄板焼きも特に珍しくはありません。ただ、本当に高いクオリティで満足させてくれるお店は数えるほど。ましてや船の上という特殊な環境で、その繊細な技術や食材の新鮮さがどこまで保たれるのか、興味と同時に一抹の不安も感じていました。
だからこそ私の好奇心が掻き立てられたのです。
「このクルーズは果たして、本物か?」
高まる期待を胸に、私は2025年1月下旬、バンコクの夕暮れが広がるチャオプラヤー川沿いにある「アジアティーク」へと向かいました。その模様をお送りします。
1. オークラクルーズとは?
「オークラクルーズ」――その名を初めて聞いた時、あなたはどのようなイメージを抱くでしょうか?
バンコクにはチャオプラヤー川を巡る数多くのディナークルーズが存在しています。有名な「チャオプラヤープリンセス」や「ホワイトオーキッド」、あるいは高級路線の「マノーラクルーズ」や「アプサラクルーズ」など、多彩な船が毎晩美しい夜景を求める観光客を乗せて行き交っています。しかし、この「オークラクルーズ」はそれらとは全く異なるポジションに位置づけられています。
まず特筆すべきは、「ホテルオークラ」ブランドを冠した世界初のクルーズであること。ホテルオークラといえば、日本国内でもトップクラスの伝統と格式を誇るラグジュアリーホテル。バンコクにおいてもYujiの定宿の一つ「オークラ プレステージバンコク」を営業しており、和の精神を随所に取り入れ、日本流のホスピタリティを世界に発信し続けています。そんなオークラが2024年12月チャオプラヤー川に進出したのは、私に非常に驚きでした。
今回私が利用したのは、「オークラクルーズ」のディナータイムに設定された鉄板焼きの『海』コース。日本直送の最高級食材を惜しげもなく使い、船内に設置された鉄板カウンターでシェフが鮮やかな手つきで料理を仕上げる、という贅沢なスタイルを特徴としています。実際、バンコクには日本食レストランや鉄板焼き店は数え切れないほどありますが、「本当に一流」と断言できるお店は非常に限られています。ましてやそれをクルーズ船上で楽しめるのは、このオークラクルーズのみ。
船は黄金色の輝きを放つ和モダンなデザインで、アジアティークの専用桟橋から出航します。定員は最大100名程度で、他の大型クルーズとは異なり、意図的に乗客数を抑えています。そのため、ゆったりと落ち着いた雰囲気が保たれ、静かに食事と会話を楽しめるのが最大の魅力です。
乗客の多くは、私と同じように特別な日に高品質なサービスを求める方々、日本人駐在員がメインですが、タイの富裕層・外国人旅行者が中心。そのため、船内では賑やかな音楽やショーは一切なく、琴や三味線の音色や日本の歌謡曲が控えめに流れる洗練された空間が演出されています。
また、オークラクルーズは料理だけでなくサービスにも強いこだわりを持っています。スタッフの多くはホテルオークラプレステージバンコクで厳しいトレーニングを受けたプロフェッショナルばかりで、細かな心配りやおもてなしはまさに日本流。ただし、接客言語は英語またはタイ語がメインであり、日本語は基本的に通じないため、その点だけは事前に理解しておくと良いでしょう。しかし、言葉を超えて伝わる気遣いと温かさは、まさにオークラブランドの真骨頂です。
このクルーズを実際に体験して強く感じたのは、「これはただのクルーズ船ではない」ということ。言うなれば、「ホテルオークラが誇る高級料亭がそのまま船上に浮かび、バンコクの美しい夜景を楽しみながら極上の食事を堪能する」、そんな特別な場所でした。
◆ オークラクルーズの運航時間・料金について
『オークラクルーズ』は毎日運航されており、19:00乗船開始、19:15出航、22:15帰港の約3時間のディナークルーズです。
料金は懐石コースが4,600バーツ++(約18,000円)、鉄板焼き「海」コースが4,900バーツ++(約19,000円)。
料金には別途サービス料(10%)と税金(7%)が加算されますのでご注意ください。
特別な体験のための価格設定ですが、それ以上の価値は間違いなくあります。
2. 乗船前から高まる期待と不安
2025年1月下旬、乾季真っ只中のバンコクは夕暮れの風が心地よく、空気は乾いて澄んでいました。この時期のバンコクは一年を通して最も快適で、夜の外出にも最適な季節。そんなベストシーズンの中、私はチャオプラヤー川沿いに位置する大型複合施設「アジアティーク・ザ・リバーフロント」に向かっていました。
しかし、タクシーに乗り込んだ時点で、私はひとつだけ気になっていたことがあります。それはバンコク特有の慢性的な渋滞です。ホテルオークラ プレステージバンコクのあるプルンチットからアジアティークまでは、距離にして約7kmほど。通常の交通状況なら20~30分程度で到着しますが、夕方は渋滞が激しくなる時間帯。今回は余裕を持って約1時間前にホテルを出発したものの、果たしてそれで間に合うのかどうか、内心少しヒヤヒヤしていました。
タクシーの車窓から見える光景は次第にネオンの数を増やし、夕闇と混じり合いながら、街全体が鮮やかに色づき始めました。
ドライバーは時折腕時計を確認しながら、「アジアティークですよね?渋滞がちょっと心配ですね」と、片言の英語で私に話しかけてきます。
「そうなんですよ。クルーズの時間が決まっているので、間に合うといいんですが…」
内心、こう答えつつ、交通状況をリアルタイムでGoogleマップで確認する私。「間に合うだろう」と予測しつつも、何か特別な体験が待っているという興奮とともに、ちょっとした不安が交差する不思議な緊張感に包まれていました。
なんとか渋滞を抜け、締切時間の30分前にアジアティークに到着。車から降りると、涼しい風が頬を撫で、川沿い特有の湿り気を含んだ微かな潮の香りが漂っていました。アジアティークの中は観光客や地元の若者たちで賑わい、特に現地の方々だけでなく観光客が楽しそうに談笑する声があちこちから聞こえてきます。
大型複合施設であり、「オークラクルーズ」をはじめとしたクルーズ船の発着場にもなる場所です。多くの利用客でごった返していますし、駐車場から集合場所へも移動が一苦労…
半分迷子になりつつも、集合場所である「サイアムティールーム」へと到着しました。
到着すると、和装姿のスタッフが利用客を待ってくれています。
写真の通り「オークラクルーズ」のためだけに用意されている建物ではないため、スタッフへ「オークラクルーズに乗船しに来た」旨を伝えて予約を確認してもらう必要があります。
予約が確認できると、スタッフが2階へと案内してくれます。
案内された2階は、オークラクルーズ利用客専用としてこの時間帯は貸切となっているようです。
ここでクルーズ出発前のひと時を過ごす事になります。
席に着席すると冷たいお茶のサービスがありました。
乾期といいつつも湿度の高いバンコク、タクシーを降りてから少し歩いただけで体はほてっており汗ばんでいます。
氷で冷やされた緑茶を体に入れるとバンコクという海外にいながらも「ほっ」とするのは日本人のさがなのでしょう。
クルーズ船が到着するまでの間に食事とともに楽しむお飲み物のメニューが配られました。
メニューを眺めつつ出発前のひと時を過ごしているとスタッフが私のところへとやってきました。
「まもなく船が到着します。よろしければ船着き場へ」
サイアムティールームのすぐ横にある船着き場の方向へ進んでいくと、遠くに黄金色の美しい船体が目に入りました。
「あれか…」
思わず足を止めて見つめる私。ライトアップされた船体は周囲の建物や夜景と見事に調和しており、オークラクルーズの存在感は圧倒的でした。乗船客らしき数組の日本人カップルや駐在員風のグループがゆったりと談笑しながら船を待っています。その雰囲気は、いかにも上品で落ち着いた大人の時間を予感させました。
オークラのクルーズは特別である、そんな期待感が一気に膨らんできます。スタッフの誘導に従って桟橋へ向かい、クルーズ船を目の前にすると、いよいよ本格的な体験が始まるのだという実感がじわじわと湧いてきました。
同時に心の中では、まだ小さな疑問が残っていました。
「本当に船の上で、最高級の日本料理やサービスを提供できるのだろうか?」
この答えを確かめるように、私は期待と不安の入り混じった気持ちを抱きながら、オークラクルーズの船内へと足を踏み入れました。
3. いざ乗船!船内のファーストインプレッション
夕暮れの空が深い藍色に変わり漆黒の闇がチャオプラヤ川を包むころ、黄金色に輝く船体がチャオプラヤー川のゆるやかな水面を滑るようにして、ゆっくりと桟橋へ近づいてきました。
船体の側面にはオークラの「三つ葉銀杏」マークが厳かに照らされています。
「いよいよだな…」
期待と緊張で少しだけ鼓動が早まります。目の前で静かに停泊した船から、スタッフが手慣れた動きで乗船口のブリッジを設置していきます。見慣れたオークラカラーの制服をまとったスタッフが穏やかな微笑みと共にゲストを迎え入れていました。
「Welcome onboard, sir.」
英語の丁寧な挨拶に促され、私も足を踏み入れました。桟橋の上で感じていたわずかな揺れは、船内に入った途端まるで陸上のような安定感に変わります。内心驚きを隠せないまま、思わず足元を見下ろしてしまいました。
船内に一歩踏み込むと、まず最初に感じたのは「凛とした和の空気感」でした。檜(ヒノキ)の柔らかな香りがほのかに漂い、控えめで上品な照明が暖かな木材を照らしています。室内に流れるのは琴や三味線の静かな音色と、心地よいボリュームの懐かしい日本の歌謡曲。船上でありながら、まるで日本の高級旅館に招かれたような錯覚に陥るほどでした。
「これは…完全にオークラだな」
自然にそう呟いたほど、私が知るホテルオークラの世界観が細部にまで忠実に再現されていました。落ち着いた和の空間とモダンなラグジュアリー感の見事な融合。期待以上の第一印象です。
乗船したゲストはそれぞれの予約席へと案内されます。席へ向かう通路はゆったりとしていて、まったく窮屈さを感じさせません。船内の乗客数が意図的に抑えられているためか、どこを見てもゆとりと優雅さが感じられます。
私は鉄板焼きカウンターへと案内されました。そこは船内中央に設置されたモダンな造りの鉄板焼きステーション。
目の前には磨き抜かれた厚手の鉄板があり、既にシェフが調理の準備を進めていました。
手元にはオークラプレステージバンコクでもよく見る鶴の折り紙。
テーブルには今回チョイスした「鉄板焼き 海コース」のメニューとクルーズ船ということで船内でのトラブル発生時のセーフティーカードがおかれていました。
自席へ着席するとともに、カウンター越しに目が合ったベテランシェフが丁寧に会釈をしてくれます。
「Good evening, sir.こんばんわ」
控えめながらも自信に満ちたその笑顔は、「これから最高の料理を提供しますよ」と静かに語りかけてくるようでした。シェフの後ろには見るからに新鮮で上質な食材が並び、期待がますます膨らんできます。
席に着くと、程なくしてスタッフが静かに近づき、丁寧な英語で話しかけてきました。
「Welcome to Okura Cruise. 最高のひとときを」
英語にわずかに混ざるタイ語のアクセントと片言の日本語、自然で心地よい距離感。私は改めて、オークラクルーズが「外国人向けの観光船」ではなく、ホテルオークラが長年培ってきた洗練されたホスピタリティそのものを提供しようとしているのだと確信しました。
ふと窓の外を見れば、チャオプラヤー川沿いの夜景が宝石のように輝き始めています。出航前のこのわずかなひと時も、すでに特別な時間として演出されているのだと気づきました。
いよいよ船がゆっくりと動き出しました。
ここから始まるクルーズが、一体どれほど素晴らしい体験を与えてくれるのか…。
高鳴る胸を抑えつつ、私は最初の一皿を待ちました。
4. 鉄板焼き「海」コースをフルレビュー
船がチャオプラヤー川を静かに進み始めると、鉄板焼きカウンターの目の前に立つシェフが真剣な表情で鉄板の温度を慎重に確認し始めました。磨き上げられた鉄板は、船内の柔らかな照明を反射し、艶やかな光を放っています。
この瞬間から、まるでシェフと私だけの特別な時間が始まったかのような錯覚に陥りました。
「では、これから調理を始めさせていただきます。」
シェフが穏やかな英語で伝えると、目の前に鮮やかな色合いの食材が次々と並べられていきます。北海道産のホタテ、瑞々しく光る海老、見るからに鮮度の高い旬の魚介類、そして目玉のひとつ、艶やかな美しい霜降りが入った日本直輸入の最高級和牛。これらの食材を見た瞬間、私の期待値はさらに高まりました。
まずは、野菜類から調理が始まりました。熱された鉄板の上に食材が置かれた瞬間、「ジュウウッ」という小気味よい音が静かな船内に響きます。心地よく漂う香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、食欲を一層刺激してきます。シェフの滑らかな手さばきはまるで熟練の職人のようで、その動きひとつひとつに無駄がなく、芸術的な美しささえ感じます。
野菜引き続き海老の調理が始まりました。手際よく調理され、絶妙な焼き加減で仕上げられ、さっと皿に盛り付けられて目の前で調理されていきます。
鉄板にて野菜や海鮮が調理されている間、お造り5種盛がテーブルへと運ばれてきました。
このお造りは豊洲市場から空輸されたものが提供されています。8時間もかけて空輸されてきたにもかかわらず味は日本とほとんど変わりありません。
つづいて提供されたのは「茶碗蒸し」。
トップにはズワイガニとキャビアが乗っており、贅沢仕様となっています。
お造りと茶碗蒸しを頂きつつひと時をたのしんでいると、鉄板焼きで調理されていた野菜・海鮮類が出来上がりました。どれも一品一品が非常に贅沢な作りとなっています。
ひと口味わうと、ホタテの中心は驚くほど柔らかく、絶妙な焼き加減によって旨味が最大限に引き出されていました。海老の食感はプリッと弾けるようで、濃厚なバターの風味と絡み合い、口の中で贅沢なハーモニーを奏でます。
続いて登場したのは、鉄板焼きのメインともいえる「和牛」です。
「本日の和牛は日本の宮城県産A5ランク。柔らかさ、脂の甘みを堪能してください。」
シェフが笑顔で語ると同時に、熱い鉄板の上で和牛の表面が静かに焼かれていきます。
今回提供された和牛は宮城県の馬場牛。A5ランクのサーロインが提供されています。
ほんの少し塩と胡椒を振りかけただけのシンプルな味付けが、この和牛本来の味を引き立てる最高の調理法だとシェフが説明します。
鉄板の上で踊るように焼かれ、ナイフが入るたびに肉汁があふれ出るその様子を見ているだけで、胸が高鳴りました。
「まずは塩で、そのあとこちらの特製タレでもどうぞ。」
差し出されたお皿から和牛をひと切れ口に運ぶと、溶けるような柔らかさが口いっぱいに広がります。脂の甘みと肉の旨味が絶妙なバランスで、シンプルながら奥深い味わいが口の中でゆっくりと溶け合っていきました。ここまでの和牛をバンコクで味わえるとは、正直、完全に予想を超えていました。
料理の間、船はチャオプラヤー川の名所をゆったりと巡っています。大きな窓からは、ライトアップされた「ワット・アルン」や「王宮」の幻想的な光景が次々と流れていきます。鉄板焼きを堪能しつつ、景色の美しさにも心奪われる、まさに贅沢の極みです。
食事が終盤に差し掛かると、ガーリックライスが登場しました。新潟県産の米を使用したというこのライスは、ほどよくパラパラに仕上がり、ガーリックの香ばしい香りが食欲を再び刺激してきます。
料理の〆にふさわしい、深い余韻を残す味わいでした。
コースの最後にはフルーツの盛り合わせ(ハニージェリー添え)が提供され、口の中を酸味と甘みで楽しませてくれます。


食事中は、特別なカクテルをはじめとしたアルコールが楽しめます。
オークラクルーズには、「将軍サワー」や「サムライハニー」等の特別なカクテルだけでなくビールやワイン、ウィスキーなどが提供されています。
食後にはスタッフがタイミングよく声をかけてきました。
「デッキで風に当たりながらお飲み物を楽しまれてはいかがでしょうか?」
食後のひとときを、バンコクの夜風と夜景の中でゆったりと過ごせるように。
ここまで計算されたおもてなしに、私は完全に感服しながら、静かに席を立ちました。
5. 食後の至福|船上デッキで味わうバンコクの絶景と風
鉄板焼きの余韻がまだ口の中に残る中、スタッフの提案に導かれ、私はデッキへと向かいました。
船内の落ち着いた和の空間とは対照的に、外に出た瞬間、心地よい夜風がふわりと頬を撫でました。日中の暑さが嘘のように和らぎ、乾季ならではの爽やかな涼しさに包まれています。湿度の高いバンコクとは思えないほどの快適な風が、食後の火照った身体にとても心地よく感じられました。
オークラクルーズの船上では、このような座敷が用意されており、日本の屋形船のような雰囲気を楽しめます。
船上ということで掘りごたつにはなっていませんが、畳敷きのアッパー席でチャオプラヤ川からの風券を満喫しながらグラスを傾ける事が出来ます。
後方には、カクテルバーが設置されており、デッキは照明が控えめで落ち着いており、派手なネオンや賑やかな音楽も一切ありません。聞こえるのは船が静かに川面を滑る際に起こる微かな水音、そして遠くから時折響く街の喧騒だけ。この静けさこそが、オークラクルーズの魅力だと感じました。
バーのそばにはカウンター越しに景色を楽しめる座席が用意されています。
こちらのデッキにも数組のゲストが、それぞれグラスを片手に夜景を静かに眺めています。船内同様に、混み合うことなくゆったりとした空間が確保されているため、自分だけの特別な時間を過ごせるようになっています。
「お飲み物はいかがですか?」
スタッフが控えめに声をかけてくれました。私はおすすめされた特製カクテルを注文し、デッキの端にあるテーブル席へと腰掛けました。
目の前に広がるのは、バンコクの象徴とも言えるチャオプラヤー川の夜景。ワット・アルン(暁の寺)は黄金色のライトに浮かび上がり、息をのむほどの美しさで目を奪われます。目を凝らすと、寺院の尖塔の細部までもがはっきりと見えるほど近くに感じられました。これは陸上から見るのとはまるで別の風景です。
ほどなくして運ばれてきたカクテルを口に運ぶと、蜂蜜の柔らかな甘さと爽やかな柑橘の酸味が絶妙に絡み合い、身体がじんわりと癒されていく感覚を覚えました。飲みやすく、それでいて奥行きのある味わいは、今この瞬間の贅沢な時間にぴったりでした。
船がゆったりと旋回するたび、視界には「ワット・プラケオ(エメラルド寺院)」や王宮などが次々と現れ、まるでバンコクの街全体が私のためにライトアップされているような錯覚すら覚えました。川沿いの高層ビル群の灯りも、川面に反射してゆらゆらと揺らぎ、まるで星空が地上に降り注いでいるかのようです。
そんな絶景を眺めながら、私はふと考えました。
「この特別感は一体どこから来るのだろう?」
その答えは、まさにこの空間の静けさと心地よさにありました。他のクルーズ船の賑やかさとは違い、ここには穏やかな静寂があり、食事の余韻を静かに噛みしめる時間が用意されているのです。
しばらく夜景に見とれていると、スタッフが再びさりげなく近づいてきました。
「写真をお撮りしましょうか?」
カメラを渡すと、丁寧に何枚か撮影してくれます。写真を確認すると、バンコクの美しい夜景が完璧な構図で映り込んでいました。小さなことかもしれませんが、この細やかな気遣いが私にとって大きな感動となりました。
穏やかな川の流れと夜風に吹かれながら、ふと時計を見ると、クルーズの終わりが近づいていることに気がつきました。この特別な時間がもうすぐ終わってしまうという切なさを感じつつも、同時に「また必ず戻ってこよう」と心に誓っていました。
それほどまでに、この船上デッキで過ごしたひと時は贅沢で、心に深く刻まれる時間だったのです。
6. 船内サービス徹底検証|「オークラフレンドリー」とは?
美味しい料理や上質な空間だけでは、本当に特別な体験とは言えません。
真のラグジュアリーは、細部に宿る「おもてなし」の心にこそ現れます。
オークラクルーズに乗船して私が最も感銘を受けたのは、スタッフのサービスに宿る「オークラフレンドリー」という精神でした。
「オークラフレンドリー」――これは私が普段よく宿泊するホテルオークラプレステージバンコクで日常的に感じている、日本式の繊細で温かな気配りを指す言葉です。オークラクルーズでは、スタッフ一人ひとりがまさにこの「オークラフレンドリー」を体現していると感じました。
スタッフの対応は英語とタイ語がメインですが、所々に日本語を交えるスタッフもいました。
完璧ではないけれど、温かみが感じられる片言の日本語を話してくれるその姿勢に、思わず笑みがこぼれます。
「お飲み物、おかわりいかがですか?」
と英語で尋ねた後、小さく日本語で、
「もう一杯?」
と恥ずかしそうに付け加えたスタッフの微笑みは、今でも鮮明に思い出せます。言葉は完璧でなくとも、ゲストを喜ばせようと努力するその真心は、どんな高級なサービスよりも価値があると私は感じました。
シェフとの会話でも、それは強く感じられました。鉄板焼きを味わいながら、私がふと尋ねました。
「日本式の鉄板焼きを船上で提供するのは難しくありませんか?」
シェフは少し照れたように笑いながら答えました。
「正直に申し上げると、最初は大変でした。ただ、オークラの名に恥じないように、日本のサービスをしっかりと学んだのです。大変でも、その先にお客様の笑顔があると思えば、全然苦になりません。」
この言葉を聞いて、私はオークラのサービスがただ単に教育によるものではなく、スタッフ一人ひとりの心に根付いているのだと感じました。
さらに、食後デッキに移動してバンコクの夜景を眺めている際にも、小さな心遣いがありました。風に当たりながら撮影をしていると、スタッフがさりげなく近づいてきて、
「写真をお撮りしましょうか?」
と控えめに声をかけてくれました。渡したカメラで撮ってくれた写真を確認すると、絶妙な角度でワット・アルンが背景に美しく映り込んでいました。そのスタッフはただ撮るだけではなく、きちんとゲストが求めている構図まで意識してくれたのです。
オークラクルーズのスタッフは、日本人のように流暢に日本語を話すわけではありません。しかし、彼らが提供するサービスや気遣いは、言語の壁を越えてゲストの心に響くものでした。
言葉が通じるかどうかよりも大切なもの――それはゲストを思いやり、心地よい空間を作りたいという純粋な想いです。
それこそが、私が体験した「オークラフレンドリー」そのものでした。
7.他クルーズとの徹底比較
バンコクには、チャオプラヤー川を巡るディナークルーズが数多く存在します。
私自身も、定番の「チャオプラヤープリンセス」や「ホワイトオーキッド」、そしてより高級感を売りにしている「マノーラクルーズ」「アプサラクルーズ」など、主要なディナークルーズのほぼすべてを体験してきました。
しかし、今回オークラクルーズに実際に乗船してみて、他のクルーズとの明確な違いを強く感じました。
まず最も大きな違いは、「静寂と落ち着き」です。
多くの観光客向けディナークルーズは、派手なライトアップや賑やかな音楽、ダンスショーなどのエンターテイメント要素を全面に出しているのが特徴です。特に「チャオプラヤープリンセス」や「ホワイトオーキッド」は大型船を使用し、多くの乗客を乗せているため、にぎやかな観光地という雰囲気を強く感じます。食事もビュッフェ形式が基本であり、料理そのものよりエンターテイメント重視の傾向が強いのです。
一方、オークラクルーズは全く逆のコンセプトです。
意図的に乗客数を抑え、席数や空間設計にもゆとりを持たせています。そのため、隣の席と距離が近くて騒がしいと感じることは全くなく、船内は終始落ち着いた雰囲気が保たれています。BGMも静かな和の音楽が中心で、会話や食事を邪魔することがありません。これは、静かな時間を求める日本人や外国人の富裕層にとって非常に魅力的なポイントです。
また料理のクオリティも、他のクルーズとは圧倒的な差があります。
例えば、同じ高級路線とされる「マノーラクルーズ」や「アプサラクルーズ」でも、料理はタイ料理中心で質も一定以上のものが提供されています。しかし、オークラクルーズが提供するのは、「本物の日本料理」。鉄板焼きに使われる食材は日本直輸入、刺身も豊洲市場から空輸という徹底したこだわりがあります。こういった食材へのこだわり、そして船上とは思えないほどの調理技術の高さが、オークラクルーズの最大の特徴です。
さらに特筆すべきはサービス品質です。
他のクルーズ船ももちろんサービス自体は丁寧ですが、多くの場合は比較的ビジネスライクで、細かな気遣いや個別対応には限界があります。その点、オークラクルーズはスタッフ一人ひとりがホテルオークラのトレーニングを受けており、細部まで行き届いた「オークラ流おもてなし」を体現しています。例えば、デッキで夜景を楽しんでいる際の写真撮影の配慮や、食事中にさりげなく日本語を交えてくれる心遣いなど、小さな部分にまで温かなサービスが感じられました。
価格についても触れておきましょう。
確かにオークラクルーズは他のクルーズより高額ですが、単純な比較では測れないほど体験の質に差があります。他のクルーズでは得られない静寂、高品質な料理、きめ細かなサービスを考えれば、この価格差は十分に納得できる範囲です。特別な記念日や、接待、大切な人と過ごす時間としては、まさに価値ある投資だと断言できます。
私は移動のプロとして世界中のさまざまなクルーズや旅を経験していますが、バンコクでこれほど「洗練された時間」を提供できるクルーズは他に存在しないと感じました。
本物志向で特別な時間を求める方にこそ、オークラクルーズの真価は伝わるでしょう。
8. 実際に利用して感じたメリットと注意点(リアルな本音)
ここまで、オークラクルーズの素晴らしさを中心にお伝えしてきましたが、最後に私が実際に感じたメリットと注意点(リアルな本音)をまとめてお伝えしておきたいと思います。
【メリット編|なぜオークラクルーズを選ぶべきか】
まず最大のメリットは、「バンコクで最高品質な日本料理を船上で楽しめる唯一のクルーズである」ということです。
バンコクには高級ホテルやレストランで本格的な日本料理を提供する場所は存在しますが、それらを船の上という特別な空間で楽しめる場所は他にありません。私自身が体験した鉄板焼きの『海』コースは、食材の質、シェフの技術、料理の美しさ、そして何より味の完成度において、地上の高級店にもまったく引けを取らないクオリティでした。
次に、「静かで落ち着いた大人の時間を過ごせる」というメリットがあります。
多くのディナークルーズが派手な音楽やダンス、賑やかな観光客であふれるのに対して、オークラクルーズは静寂そのもの。落ち着いた音楽、丁寧でさりげないサービス、そして客層そのものもマナーが良く静かなため、記念日や特別な食事の場として非常におすすめです。
また、「オークラブランドならではの細かな気遣いやサービスの質の高さ」も大きなメリットです。
スタッフの細やかな配慮や、シェフやスタッフとの温かみのあるやり取りは、決して派手ではないものの、心に残る素晴らしい体験となりました。特にデッキで過ごすひと時の贅沢さや、食後に感じるスタッフのさりげない気遣いなどは、他のクルーズでは得がたいオークラならではの魅力です。
以上のメリットを考えれば、このクルーズを体験する価値は十二分にあると感じます。
【注意点編|利用前に知っておくべきポイント】
しかし、実際に利用する上で注意すべきポイントも存在します。
まず第一に、「ホテルからアジアティークまでの移動は時間に余裕を持って」ということです。
私自身が今回体験したように、夕方のバンコクは渋滞が日常的です。集合時間ぎりぎりを狙って移動すると、焦りや不安でせっかくの素敵な体験が半減してしまう恐れがあります。ホテルから最低でも1時間30分前には出発し、ゆったりとした気持ちでアジアティークへ向かうことを強くおすすめします。
次に、船内の会話や接客は基本的に英語またはタイ語である」ということ。
スタッフの中には片言の日本語を話してくれる人もいますが、基本的なサービスの案内や料理の説明は英語中心です。英語があまり得意でない方も、サービススタッフの丁寧な接客で問題なく過ごせますが、日本語のみで完璧なコミュニケーションを希望される場合はやや難しく感じるでしょう。ただし、このことが逆に海外らしい非日常感を引き立てる良さにもつながっています。
最後に、「日程が決まったら早めの予約が必須」ということも忘れてはいけません。
席数に限りがあり、人気のある日や時間帯は事前に埋まってしまうことが予想されます。特に週末や祝日、乾季の旅行シーズンなどは予約が集中しやすいので、日程が決まったら早めの予約をおすすめします。
オークラクルーズは「誰にでもおすすめできるクルーズ」ではありませんが、「特別な時間を特別な人と過ごしたい」と考える方にとっては、これ以上ないほど素晴らしい選択肢です。
以上が、私が体験したオークラクルーズのリアルなメリットと注意点です。
ぜひ、あなた自身もこの素晴らしい体験をしてみてください。
まとめ|オークラクルーズは「体験する価値」があるか?
私がオークラクルーズを体験する前に抱いていた一番の疑問は、
「本当に船の上で、本格的な日本料理とオークラ流の上質なサービスを楽しめるのか?」
というものでした。
そして今、実際に体験した後に私が出せる答えは明確です。
「オークラクルーズは、間違いなく『体験する価値』がある」
正直に言えば、最初は少なからず不安がありました。
バンコクには確かに数多くのディナークルーズが存在しますが、それらのクルーズで体験できる料理やサービスの質は玉石混交です。ましてや船上で繊細な日本料理を提供するということは、決して簡単なことではありません。
しかし、実際にオークラクルーズを利用してみて感じたことは、ホテルオークラというブランドが提供する体験には妥協が一切ないということです。料理はまさに「本物」、サービスは繊細で温かく、船内空間は落ち着いた「和」の雰囲気を完璧に作り出していました。
特に印象的だったのは、船上という非日常空間だからこそ際立った料理のクオリティとサービスの細やかさでした。食材は日本直輸入、料理は日本の料亭と遜色ないレベルで提供され、スタッフの気遣いは細部まで行き届いていました。船内の空間設計やBGMに至るまで、オークラの美学とこだわりが随所に表現されています。
ただし、料金設定は高級クルーズの部類に入り、誰にでも手軽におすすめできるものではありません。それでも私は、「価格以上の体験価値が十分にある」と自信をもってお伝えします。
オークラクルーズは、単なるディナーを楽しむ場所ではなく、人生に特別な思い出を刻むための舞台です。
だからこそ私は、あなたに伝えたいのです。
「特別な日、大切な人との記念日、ビジネスで重要な接待、そして自分への特別なご褒美――そんな大切な瞬間にこそ、このクルーズをぜひ体験してほしい」と。
私自身、世界中の多くのクルーズやホテル、レストランを体験してきましたが、このオークラクルーズは、間違いなくバンコクで体験できる最も贅沢で完成度の高い日本料理クルーズの一つだと言えます。
あなたが次にバンコクを訪れる際には、ぜひ「オークラクルーズ」を選んでみてください。
その時、あなた自身が私と同じ感動と喜びを味わえることを、私は確信しています。
旅はただ移動することではありません。
旅とは新しい体験、新しい感動に出会うための素晴らしい機会なのです。
ぜひ、オークラクルーズでその特別な体験をしてみてください。
最高の旅を、あなたにも――。